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相続財産の範囲

亡くなられた方(被相続人)の財産に属した「一切の権利義務」を承継する(包括承継)のが相続という制度です。
例えば、不動産の所有権や借地権、金銭債権・債務、知的財産権といった権利や義務のほか、権利そのものではなくても、財産上の「法的地位」(例えば、売買契約の「売主の地位」や「買主の地位」であったり、「契約の取消権」「契約時の悪意や過失」といったものも含む)も承継する対象となります。

しかし、被相続人の有していた財産や権利義務であっても相続財産から除外されるものや、そもそも被相続人の財産とはいえないものもあります。

相続財産になるもの、ならないものをご紹介します。

相続の対象から除かれるもの

民法の規定では、「財産上の権利義務」が相続の対象であって、そこから「被相続人の一身に専属したもの」が除かれます。

そこでまずは、財産上の権利義務でないものは、相続財産にはなりません。
したがって、被相続人の身分上の権利義務である、親権、認知請求権、夫婦の同居義務などは、相続の対象ではありません。

また、財産上の権利義務であっても、一身専属権については除外されます。
例えば、子から親、親から子に対する扶養請求権や、年金請求権、生活保護受給権などは、その人個人に(一身に)属するもので相続になじまないので、一身専属権として相続財産から除外されます。
債務についても、一身専属の債務(例えば、依頼を受けた芸術家が作品を作る債務のようなもの)についても相続の対象とはなりません。

ここからさらに、祭祀財産についても、相続財産からは除外されます。

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なお、被相続人の死亡によって相続人が取得する権利であっても、本来的に被相続人の財産には属さない相続人固有の権利というものもあります。
これは最初から相続人の財産なので相続財産には含まれません。

具体例

建物賃借権

賃貸住宅に居住している場合、賃貸借契約に基づく建物賃借権(借家権)という財産権を有していることになります。
この賃借権は、一身専属権ではなく、亡くなった方が借りていた賃貸住宅には、賃借権を承継した相続人がそのまま住むことができます。

この場合、賃借権には賃料の支払債務がついてきますので、相続人が賃貸住宅に住み続ける場合は、当然家主に賃料(家賃)を支払わなければなりません。

占有権

物を事実上支配(所持)している状態を「占有」といい、その占有によって生じる権利を占有権といいます。
「占有」は、「所有」と違って、基本的には事実的な状態(自己の支配下にあること)を示すものですが、純粋な事実関係のみによって生じるのではなく、法的な評価を含む概念です。
物理的に物を「手に持っている」場合や「その家の中で住んでいる」ような場合だけでなく、他人を介して占有することもできます。
例えば、建物を他人に賃貸している場合、賃借人がその建物を直接占有すると同時に、賃貸人がその建物を間接占有しているることになります。

このように占有権も単なる事実状態ではなく、法的評価を含む観念的なものであるところから、相続の対象になります。
したがって、ある人が他人の土地上に居住してその土地を占有していた場合、その人(被相続人)が死んだ後、その人の相続人が引き続き居住していなかったとしても、特別の事情がない限り被相続人の占有権を相続して占有が継続していると認められます。

損害賠償請求権

不法行為や債務不履行によって生じる損害賠償請求権も金銭債権(他人に金銭の支払いを請求できる権利)の一種ですから、相続の対象となります。
ただし、生命侵害から生じる損害賠償請求権が相続されるのか、という点については理論的に争いがあります。
死亡によって損害が発生すると同時に、その人は権利の帰属主体でなくなるからです(権利は、生きている人に帰属するもの)。
もっとも、現在の判例は、生命侵害から生じる損害賠償請求権(財産的損害だけでなく死亡慰謝料も含む)が相続されることを肯定しています。

保険金請求権

亡くなった方が生前受け取ることができた保険金(例えば、入院給付金等)を受け取らずに亡くなった場合、その未払いの保険金請求権が相続の対象になることは当然です。
では、亡くなった方にかけられていた(その方が被保険者となっていた)生命保険の死亡保険金についてはどうでしょうか。

死亡保険金の請求権は、その保険契約において受取人とされている人に直接帰属する固有の権利であり、亡くなった方が有していた財産(=相続財産)には含まれません。
例えば、生命保険の受取人が子(相続人)になっていた場合、子は契約上の受取人として保険金請求権を取得するのであって、亡くなった方の相続人として保険金請求権を取得するわけではないのです。

したがって、一部の相続人が生命保険金を受け取った場合でも、そのことによってその人が遺産分割で取得できる取り分は減らないのが原則です。

もっとも、生前に財産の大部分を生命保険の保険料として払い込んでいたような場合など、そのことで相続人間に不公平が生じることにもなります。
例えば、生前に1000万円を定期預金にしていれば全額が遺産分割の対象になりますが、仮に死亡保険金が1000万円の保険(保険料は1000万円を一時払い)に入っていたらそれは受取人固有の財産として遺産分割の対象にならないからです。
そこで判例は、例外的に「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、特別受益に準じて、相続財産に含めて計算することを認めています(最判平成16年10月29日民集第58巻7号1979頁)。

死亡退職金受給権

会社勤めの人が死亡した際に、遺族に対して退職金が支払われることがあります。

死亡退職金が出る場合、支給の根拠となる社内の規程等で受取人が定められているはずなので、一般的にはその受取人の固有の財産として相続財産には含まれないと考えられます。
相続人の一人が死亡退職金を受け取った場合に、遺産分割において考慮すべきか(特別受益になるか)という点に関しては、争いがあるところです。

未支給年金請求権

国民年金や厚生年金の受給権者が死亡した場合に、まだ支給されていない年金があれば、請求権だけが残ります。
この場合の未支給年金請求権につき、民法が定める相続人とは異なる範囲及び順位の「遺族」に請求権が認められています(国民年金法19条、厚生年金保険法37条)。
そこで、受給権者が死亡した場合の未支給年金の請求権は、それぞれの法律に定められた遺族の固有の権利と解されており、相続財産には含まれません(最判平成7年11月7日参照)。

知的財産権

著作権や特許権なども財産権であり、特に一身に専属する性質のものでもないので、相続財産に含まれます。
もっとも、相続人が不存在の場合は、各根拠法において、国庫に帰属せずに消滅するものと規定されています(著作権法62条1項1号、特許法76条、実用新案法26条、商標法35条、意匠法36条、種苗法26条2号、半導体回路配置保護法15条2号)。

なお、著作権(著作財産権)と違い、氏名表示権や同一性保持権などの「著作者人格権」については、一身専属権として相続の対象にはなりませんが、著作者の死亡後の人格的利益の保護のために、一定の範囲で相続人の権利(差止請求権等)が認められています。

保証債務

相続は、プラスの財産もマイナスの財産(債務)も全て包括的に承継する制度ですので、金銭債務も相続財産(ただし価値はマイナス)になります。
保証債務も、金銭債務ですので原則として相続財産の対象になりますが、保証債務は、保証人が負うべき責任の範囲が際限なく広がることもあります。
自己の責任で債務を負った元々の保証人はともかく、その相続人にまで過度に広範な責任を負担させるのが適当でない場合もあります。

そこで、例えば、いわゆる身元保証債務などは相続されないと解されています。
また、不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)に基づく保証債務については、相続人が負担すべき範囲が民法及び判例によって制限されています(制限の範囲は民法改正によって拡大しています)。

葬儀費用

葬儀費用は誰が負担すべきものなのかについて、民法は明確な規定をしておらず、争いがあるところです。

被相続人が生前に予め自らの葬儀について葬儀会社と契約をしており、自らの費用で支出することになっていれば、その契約に基づく支払いも被相続人の債務であり、死亡後は相続財産に含まれると考えられます。
ただし、そのような場合はむしろ稀で、普通は生前の契約などなく、遺族の誰かが葬儀会社と契約することが多いと思われます。
この場合、債務は相続開始後に発生するものですので相続財産には含まれず、一般的には、葬儀の主宰者(喪主)が負担すべきものと考えられています。
もっとも、相続人間で合意があれば、葬儀費用の負担を考慮した遺産分割協議をすることは可能です。

みなし相続財産

民法上、相続財産に含まれないものであっても、相続税の計算において相続財産とみなされて課税対象となる財産があります。
これを「みなし相続財産」といいます。
みなし相続財産には、死亡保険金(被相続人が保険料を負担していた生命保険)や、死亡退職金などがあります。

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