後見制度支援信託・預金
後見制度支援信託・後見制度支援預金とは何か?
成年後見制度の利用件数は毎年増えていますが、それに伴い、後見人等による財産の横領等の不正も増加しています。
弁護士や司法書士が横領をするとニュースで大きく報道されますが、その一方で、報道されない親族による不正が多発しており、割合でいえば不正事案の大部分が親族によるものとなっています。
もちろん、専門職・親族にかかわらず、圧倒的多数の後見人は不正もせずにきちんと後見人の義務を果たしていますので、不正の事案はごく少数ではあるのですが、ごく少数であっても不正はあってはならないことです。
そこで、不正防止のために裁判所が導入したのが「後見制度支援信託」という制度です。
これは、本人の財産のうち、預貯金に関して、普段使わない分は信託銀行に預けてしまい、後見人が自由に動かせないようにする制度です。
これによって100%不正が防止できるものではありませんが、不正防止手段のひとつとして期待されています。
支援信託制度の運用が開始された後、信託銀行以外でも同様の仕組みが作れないかが検討され、一定の金融機関では、信託ではなく預金契約の枠組みの中で「裁判所の指示がなければ引き出すことができない預金」として「成年後見制度支援預金」の運用も開始されています。
支援預金も、支援信託同様に利用されています。
どのような場合に利用されるか
支援信託や支援預金(合わせて「支援商品」といわれます。)は、すべての事案で利用されるわけではなく、支援商品の利用に適した事案でのみ利用されます。
各地の家庭裁判所の運用によって差はありますが、支援商品の利用に適した事案とは、概ね次のような条件を満たす場合です。
- 専門職(司法書士、弁護士、社会福祉士)以外の者(親族やその他の第三者)が後見人に就任している。
- 預金額が多額である。
- 親族後見人が制度利用に同意している。
- 本人の遺言が存在しない。
- 収支が安定している。
- 預貯金以外に多額の財産が存在しない。
不正防止の方法は、支援商品に限られません(例えば監督人の選任等)ので、実際にはケースバイケースで判断されることになります。
なお、「後見制度」支援信託・預金なので、成年後見だけでなく未成年後見でも利用されますが、今のところ保佐や補助では利用されない運用となっています。
信託を利用する場合の手続き
特に支援信託の場合、実際の信託契約手続は、法律専門職である司法書士又は弁護士が行います。
そこで、一時的に司法書士か弁護士が職権で成年後見人に選任されます。
いくつかのパターン
新たに後見人が選任される場合に、支援商品利用に適した事案であると判断されると、家庭裁判所は、最初から専門職を選任することになります。
このとき、親族と専門職を同時に選任する(複数後見)場合もあれば、まずは専門職のみを単独で後見人に選任し、信託手続が終了後に後見人を交代する場合もあります。
もうひとつのパターンが、既に親族が後見人に就任している場合です。
このときは、専門職が信託手続を実施するために追加で選任され、一時的に複数後見人となります。
複数後見人になった場合、信託手続以外の日常的な後見人としての財産管理は、親族後見人が行うのが一般的だと思われます。
さらに大阪家庭裁判所では、新規選任案件のうち、支援商品の利用が検討される事案は、通常は、総合支援型後見監督人が選任されている事案です。
この場合においては、監督人の指導の下で親族後見人が手続を行います。
支援商品利用までの流れ(専門職が選任される場合)
新規案件では申立て時に、継続案件では職権で専門職を選任する前に、裁判所が、親族後見人に後見制度支援信託の利用について意向調査を行います。
親族後見人が制度利用に反対すればその段階で手続きは終了しますが、利用に同意すれば、職権で専門職が後見人に選任されます。
選任された専門職後見人は、通帳や帳簿、領収書類、公租公課の資料等を精査し、正確な財産目録と収支予定を作成します。
既に親族後見人が選任されているパターンでは、この段階で親族後見人業務をチェックする役割も担っており、親族後見人が作成していた収支予定とは異なる内容になることもあります。
その他、支援商品利用に適さない事情がないかどうか、1か月~数か月程度かけて専門職後見人が事案を詳しく調査検討します。
専門職後見人が検討結果を裁判所に報告します。
検討の結果、支援商品利用相当という報告を出すこともあれば、利用不相当という報告を出すこともあります。
利用相当の場合は、いくら信託(又は預金の預替え)するか、定期交付金(収支が赤字の場合は、定期的に普通預金に振り込まれるよう設定します)の額と頻度等も報告します。
専門職後見人の報告を基に裁判所が結論を出します。
裁判所が、支援商品を利用を指示する決定をすれば、専門職後見人に対して指示書が出されます。
専門職後見人は、指示書に従い、預貯金の大部分(親族後見人の手元に残す100~300万円程度を除いた残額)を信託又は支援預金に預け替える契約締結手続を行います。
具体的な手続の順序は、専門職後見人の指示に従ってください。
契約締結手続が終了すれば、特に問題がなければ専門職後見人は裁判所の許可を得て辞任し、親族後見人がまだ選任されていなければ選任申立ても行います。
親族後見人がいれば(または選任されれば)、預かっていた財産を親族後見人に引渡します。
このときに、専門職に後見人報酬が発生しますので、本人の財産から支払うことになります。
契約後の管理方法
支援商品の契約手続が終わって専門職後見人が辞任すれば、あとの後見業務は普通の事案と変わりません。
なお、大きな支出が必要になり、手元の現金預金だけでは足りなくなった場合は、裁判所の指示に基づいて信託又は支援預金に預けられた金銭の一部を引き出すことができます。
逆に、収支が黒字で、信託後にも手元の現金預金が増えていき、一定以上になった時は、裁判所の指示に基づいて改めて追加で契約手続きをする必要があります。
親族後見のご相談
預金の大部分を裁判所の指示がなければ動かせなくする制度ですので、自分たちが信用されていないようで、不快に思われる親族後見人の方もおられます。
他方で、他人の多額の財産を、自分の手元で厳重に管理しなければならない負担が軽減され、むしろ当然のこととして喜ばれる親族後見人の方もおられます。
後見制度支援商品に対する評価は様々ですが、制度の利用には親族後見人の理解と協力が不可欠です。
支援商品制度のことに限らず、親族後見人として何か困ったことがあれば、成年後見の専門家である当事務所にご相談ください。