後見人の報酬
主に専門職後見人が就任した場合、後見人等(保佐人・補助人を含む)に対して報酬を支払うことになります。
この報酬を、いつ支払うのか、いくら支払うのか、誰が決めるのかが気になるところだと思います。
法定後見の場合
民法には、次のような規定があります。
「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。」
つまり、法定後見の場合、家庭裁判所が報酬の額を決定し、本人の財産から支払うことになります。
手続としては、後見人から家庭裁判所に対して報酬付与の申立てを行い、これに対して家庭裁判所が「報酬付与の審判」をします。
この審判が「何年何月何日から何年何月何日までの報酬として金何円を与える」という内容になっており、この審判に基づいて後見人が報酬を受け取ることができるのです。
実務上は、(大阪家庭裁判所管内では)年に1回の業務報告と同時に報酬付与の申立てを行いますので、基本的には年に1回、過去1年分の報酬について支払われるという流れになります。
後見人は、法律に則って家庭裁判所で決められた報酬以外の報酬を受け取ることはできませんので、事前に(例えば、親族との間で)報酬に関する契約を締結しておいてその金額を毎月受け取ったり、報酬付与の審判を待たずに個別に「手間賃」やら「日当」名目で金員を受け取るようなことは認められません。
報酬額の目安については一応公表されていますが、あくまで目安なので、「資力その他の事情」を勘案して「相当な」報酬が毎回個別に算定されます。
なお、成年後見監督人(保佐監督人・補助監督人も同様)が選任されている場合では、後見人とは別に、成年後見監督人に対しても同様の手続で報酬が付与されることになります。
任意後見の場合
任意後見人の報酬
任意後見は本人と後見人との契約に基づいて成立します。
後見人の報酬についても契約で定めることになりますので、金額や支払い時期など全て契約次第です。
法定後見の場合と違って、報酬について家庭裁判所は一切関与しません。
したがって、任意後見契約を締結する段階で、十分に納得した内容で契約をすることが重要になります。
任意後見契約を締結する場合、同時に他の契約(見守り契約、財産管理等委任契約、死後事務委任契約など)を契約することが多いですが、その場合のそれらの業務に対する報酬も契約で定めることになります。
任意後見監督人の報酬
任意後見契約は、後見人の業務を監督する任意後見監督人が選任された段階で正式に発効します。
つまり、任意後見において任意後見監督人は必ず選任されることになります。
この任意後見監督人は、任意後見契約の当事者ではなく、家庭裁判所が選任します。
そして、その報酬についても、法定後見における成年後見監督人と同様の家庭裁判所の手続が必要です。
すなわち、任意後見監督人が家庭裁判所に報酬付与の申立てをして、これに対して家庭裁判所が報酬付与の審判をし、この審判に基づいて任意後見監督人が報酬を受け取るのです。
報酬を支払わないとどうなるか
基本的には後見人が財産管理を行っているため、報酬付与の審判が出たにもかかわらず後見人に報酬が支払われないという場面は、あまり多くありません。
しかし、例えば保佐や補助類型において預貯金の全部又は大部分を本人が管理している場合、複数後見で預貯金の大部分を別の後見人が管理している場合、本人が死亡して預貯金を相続人に引き継いでしまった場合などのように、報酬を受けるべき者が財産を管理していないこともあります。
報酬付与の審判は、判決のような「債務名義」ではないと解されているので、この審判書に基づいていきなり強制執行をするということはできません。
ただし、報酬付与の審判によって後見人の報酬請求権は具体的な権利となりますので、報酬請求権に基づいて訴えを起こすことは可能となります。
また、この報酬請求権、支払う本人の側から見れば報酬債務ですが、他の債務と同様に、相続の対象になります(大阪地判平成27年7月22日判時2286号118頁参照)ので、本人が死亡した場合は、相続人が支払う義務を負うことになります。