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後見人の義務と責任

成年後見人は、本人の財産を包括的に管理する大きな権限を有しています。
そのために、相応の義務と責任を負っています。

本人との関係

善管注意義務

善管注意義務とは、「善良な管理者の注意義務」の略であり、成年後見人(保佐人、補助人)には、この注意義務が課されています(民法644条、869条。保佐人につき876条の5、補助人につき876条の10)。

すなわち、後見事務を遂行するにあたっては、「善良な管理者の注意」をもって行う義務があり、これを怠ると、義務違反による過失が認められることになります。

「善良な管理者の注意」とは、要求される注意義務の程度を表す概念であり、その人の職業や社会的地位等に照らして通常期待される程度の注意をいい、要求されている注意義務の程度としては、比較的高度なものです。

善管注意義務と対比される注意義務として、「自己の財産におけるのと同一の注意義務」というものがありますが、他人の財産を管理する後見人に求められる注意義務としては、「自己の財産におけるのと同一の注意」では足りないということになります。

善管注意義務を怠ったことにより、本人(被後見人)に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負うことがありますので、後見人の責任は重大です。

身上配慮義務

民法は、「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」(858条)として、成年後見人の身上配慮義務を定めています(保佐人について876条の5に同様の規定。補助人については、876条の10で準用)。
成年後見人は、法定代理人として、医療や介護、福祉に関する契約をしたり、本人の財産を処分する権限を有していますが、その権限はあくまでも本人の利益のために付与されたものです。
そのため、これらの権限を行使するにあたっては、必ず本人の身上に配慮しなければならないとされているのです。

第三者との関係

善管注意義務や身上配慮義務は、本人に対する義務です。
そこで、成年後見人は、第三者に対して何らかの義務や責任を負っているかという問題があります。
というのも、成年被後見人は、責任能力を有しないことが多く、成年被後見人が第三者に損害を与えたような場合、本人(被後見人)の法定代理人である成年後見人にも何らかの責任があるのではないかと考えられるからです。

この点につき、かつての民法学では、成年後見人は当然に成年被後見人の監督義務者(民法714条)であるとして、成年被後見人が第三者に与えた損害について賠償する責任(監督義務者責任)を有するという見解が一般的でした。
しかし、成年後見人に課されている法律上の義務は、本人に対する義務(善管注意義務や身上配慮義務)であって、他者に損害を与えないよう監督する義務もなければ、そもそもそのような(例えば、本人の身体拘束をするような)権限もありません。
それにもかかわらず、当然のように成年後見人が監督義務者であるとされていたのには、歴史的背景(かつての禁治産者制度や、精神保健福祉法の保護者制度のなごり)があるのですが、現行制度になって法律の条文も制度趣旨も大きく転換したため、従前の見解を維持する合理的理由がありません。

そこで、現在では、最高裁判所が「保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない」(最判平成28年3月1日)としたため、これが判例となり、成年後見人が一般的に監督義務者責任を負うことは否定されています。

もっとも、いかなる場合でも何ら責任を負わないということではなく、具体的な場面で、成年後見人が何らかの義務違反(過失)により他人に損害を与えれば、それが不法行為等にあたって損害賠償責任を負う場合があることはいうまでもありません。

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