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取消権と同意権

後見人等が行う財産管理

成年後見人の職務は、「財産管理」と「身上監護」です。
このうち、「財産管理」の中身について一般的に思い浮かべるのは、ご本人の代理人として、様々な契約の締結や取引(銀行取引等)をしたり市役所等の行政機関の手続を行ったり、場合によっては親族間の遺産分割協議を行ったり裁判手続したりすることだと思います。

後見人等は、法定代理人であり、様々な(包括的な)代理権を有しています。
そして、日常的な財産管理業務の大部分は、この代理権の行使であるといえます(なお、身上監護業務についても、施設の入所契約を行ったり介護サービスの手配をするのは、法定代理人としての代理権の行使になります)。

ところで、後見人等が本人の財産を保護するために有している権限には、代理権だけでなく取消権や同意権があります。
取消権とは、文字通り一定の法律行為を取り消す(事後的に無効にする)ことのできる権限であり、同意権は一定の法律行為に同意を与える(与えない)権限です。
いざというときには、これらの権限を適切に行使するのも、後見人等の大事な役目なのです。

類型ごとの取消権と同意権

後見

原則:成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。(民法9条)
例外:日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。(同条但書)

後見類型における取消権の規定は単純です。
すなわち、原則として成年被後見人(本人)が行った法律行為(契約の締結など)については、本人や成年後見人が後から取り消すことができます。
取り消された行為は、最初からなかったこと(遡及的に無効)になりますので、確定的に有効な契約を締結したければ、基本的には全て成年後見人が本人に代わってすることになります。

後見類型の場合、本人は判断能力を欠いている常況にあるため、判断能力を欠いたまま不当な契約を締結してしまって損害を被ることのないよう保護する必要があるためです。
成年後見人自身が代理で行うことが基本なので、成年後見人に同意権はない(「本人の行為に同意を与える」という余地はない)ということになります。

ただし、例外として、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、取消権の対象外とされています。
日常的な買い物まで単独でできないというのは過剰な制約であり、また、日用品の購入程度であれば仮に不当な契約であったとしても損害は軽微であるからです。

「単独で有効に法律行為をなしうる地位又は資格」のことを「行為能力」といい、基本的には全ての人が行為能力を有していますが、成年被後見人はこれが制限されています。
行為能力が制限されている人を「制限行為能力者」といいますが、成年被後見人は制限行為能力者の典型例といえます(成年後見制度が創設される前の古い制度では、禁治産者等を「無能力者」と呼んでいましたが、能力が無いわけではありませんので、現行法ではこの呼称は廃止されました)。

保佐

原則:被保佐人が特定の行為をするには、保佐人の同意を得なければならない。(民法13条1項)
例外:日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。(同条但書)

保佐類型の規定は、後見類型よりやや複雑です。
特定の行為というのは、民法13条1項各号に掲げれた行為ですが、そこには次のような行為が「保佐人の同意を得なければならない行為」として列挙されています。

  1. 元本を領収し、又は利用すること。
  2. 借財又は保証をすること。
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
  4. 訴訟行為をすること。
  5. 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
  7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  9. 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。

細かい内容はともかく、いずれも、多額の支出を要したり、判断を誤ると大きな損害を受けるなど重大な法律行為です。
被保佐人(本人)は、このような重大な行為をする場合には、必ず「保佐人の同意を得なければならない」とされています。

後見類型と違って、本人が行うこれらの法律行為を「取り消すことができる」とは定められていません。
保佐類型の場合、本人は不十分ながらも判断能力を有しているため、基本的に自ら法律行為を行うことが可能とされており、ただその判断は慎重になされるべきであることから、例外的に一部の重大な行為については、支援者たる保佐人の「同意」が必要とされているのです。

では、本人が保佐人の同意なく上記の行為を単独で行った場合はどうなるかというと、この場合には、後から取り消すことができます。(13条4項)
つまり、保佐人の同意権と取消権は表裏一体の権限であるといえます。

なお、例外の例外として、上記に該当する行為であったとしても、成年被後見人でも単独で行えるような日常生活に関する行為については、被保佐人も単独で(同意を得ることなく)行うことが可能です。

補助

原則:被補助人は、全ての法律行為を単独で有効にすることができる。
例外:家庭裁判所の審判で決められた行為をするには、補助人の同意を得なければならない。(民法17条1項)

補助類型の規定は、さらに複雑です。
補助開始の審判を受けただけでは、被補助人(本人)が単独で有効にすることのできる法律行為に制限はありません。

ただし、本人の保護のために必要であれば、家庭裁判所は、(申立てに基づいて)補助開始の審判と同時に、特定の行為(保佐人の同意権の対象となっている行為の中から必要なもの)について補助人に同意権を与える審判をします。
同意権付与の審判がなされた場合、審判で定められた特定の行為を被補助人がするには、補助人の同意が必要となります。

例えば、補助開始の審判と同時に「借財をすること」について補助人に同意権を付与する審判をした場合、本人は単独で借金をすることはできず、補助人の同意を得ずに借金をしても後から取り消すことができることになります。
しかし、それ以外の行為については、全て本人が(補助人の同意がなくても)単独で行うことができ、事後的に取り消すこともできません。

同意権付与の審判は任意なので、補助人が一切の同意権を有していないこともあります(補助人は代理権のみ有する)。
この場合の被補助人は、行為能力が全く制限されていないので、「制限行為能力者」ではないということになります。

監督人の同意権

成年後見監督人

成年後見監督人は、成年後見人の監督をするのがその職務ですので、原則として監督人自身が直接財産管理を行うことはありません。
監督といっても、成年後見人による不正を防止する役割を負うだけでなく、成年後見人の誤った判断等によって本人に損害が及ばないよう、後見人をサポートする役割も担っています(そのため、実務上、成年後見監督人には法律専門家である司法書士又は弁護士が選任されます)。

そこで、成年後見監督人が選任されている場合、特定の重大な行為、具体的には保佐人の同意権の対象となっている民法13条1項各号の行為(ただし、元本の領収を除く)については、成年後見人が単独で行うことができず、成年後見監督人の同意が必要とされています。(民法864条)

ただし、成年後見人が成年後見監督人の同意を得ずに、同意を要する行為を単独でした場合であっても、成年後見監督人に取消権はありません。
この場合に、当該行為を取り消すことができるのは、成年被後見人又は成年後見人であって成年後見監督人ではありません。
もし成年後見人が成年後見監督人の同意を得ず、独断で不当な取引をしてしまった場合は、同意を得ていないことを理由に、成年後見人自身が取消権を行使することができるということになります。

保佐監督人・補助監督人

保佐監督人と補助監督人には、成年後見監督人のような特定の行為(民法13条1項各号の行為)について同意権を有するという規定はなく、864条も準用されていません。
したがって、重大な行為であっても、保佐人や補助人は、代理権を付与されている限り、保佐監督人や補助監督人の同意を得ることなく、単独ですることができます。

(保佐人や補助人が代理権を有しているということは、あらかじめ本人の同意を得て、家庭裁判所が個別に代理権付与の審判をしているということになります。)

保佐監督人や補助監督人が同意権を有しているのは、保佐人や補助人が、本人と利益相反行為をする場合です。
利益相反行為とは、典型的には、保佐人や補助人が本人と契約をするような場合です。

仮に後見類型の場合であれば、利益相反行為については、成年後見監督人が例外的に本人の代理人として代理権を行使することになります。
保佐や補助類型の場合も、保佐監督人や補助監督人が本人の代理人となることも可能なのですが、代理権を行使するのではなく、被保佐人や被補助人が利益相反行為をすることにつき同意するという形での関与も可能です(民法876条の3第2項、876条の8第2項)。

この場合の同意権は、本人(被保佐人や被補助人)の行為に関する同意であって、本来的には保佐人や補助人が同意権を有している行為に関し、保佐人や補助人の代わりに監督人が同意権を行使するというものです。
したがって、成年後見監督人が成年後見人の特定の行為に同意をするのとは異なります。

任意後見人

任意後見人には、取消権も同意権もありません。
任意後見契約の実質は、代理権を付与する委任契約に成年後見制度として一定の効力を付与したものであるため、委任者たる本人の行為能力が制限されることはないのです。
したがって、任意後見制度は、法定後見制度と違い、任意後見制度は制限行為能力制度ではないということになります。

成年後見制度について詳しく知りたい方は、まずはご相談ください。

悪質商法等の消費者被害の予防には、成年後見制度の取消権は強力な武器になる場合があります。

当事務所では、専門職後見人として、成年後見業務に積極的に取り組んでいます。
主に高槻市を中心に、北摂地域(茨木市、摂津市、吹田市、島本町)において後見人に就任するほか、大阪全域やその周辺地域の方の後見申立手続きについてサポートしています。

成年後見制度について検討されている方は、まずはご相談ください。

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